文献調査を技能の取得へとつなげるアクティブラーニングの実践記録


 長らく、理学療法士・作業療法士の教育現場では、徒弟制度がとられ、技はぬすむものであり、知識は自分で探すものとされ、その方法を具体的に示すことはほとんどなされてきませんでした。また、机上学習では講義一辺倒の形態も多くとられてきました。学生からすると、講義一辺倒の学習を終えたところで急に実践がやってくる感があり、その間を埋めるのは個人の努力のような形になっていたところが否めないかと思います。
 近年、アクティブラーニングという教育形態が推奨され、学生自ら学んでいくスタイルが多くの教育機関で取り入れられるようになりました。ただ、アクティブラーニングの進め方は様々で試行錯誤の日々です。
 今回は、机上と実践の間を埋めていく演習の中で文献調査を実技の取得へとつなげるべくアクティブラーニングを試みたので書き留めておきます。 

教科書通りの実技に疑問を投げかける教員の役割

 理学療法士・作業療法士の学校では、1年生の時に検査の技術を学び、マニュアル通りの計測の実技をみにつけます。例えば、関節可動域測定(ROM)では、関節の動かし方、持ち方、角度系の当て方を学び、健常者同士で測定しあいます。一緒にROMの測り方を学んでいる学生通しの測定です。患者役になる学生は、やはり図りやすいように動いてしまいます。1年生で身に着けるのは、そのようなものです。
 2年生になると、実際の患者の病状を考えながら、計測することが求められます。筋肉の緊張が高くなっていて、リラックスをさせなければ、専門用語でいうと痙性を緩めなければ、関節自体の動く範囲が測れないわけです。しかし、学生は、そこには中々気づきません。1年生でならっとマニュアル通り測るわけです。これでは、目的通りの計測にならないわけです。
 従来の教育であれば、「本当にこれでいいだろうか?マヒのある患者さんです。よく考えてごらん。」と提示し、学生が答えを持ってくるのを待ち、ヒントを小出しにして、何度もやりとりをして学生なりの答えを探すように運んでいたことでしょう。
 従来の教員のように、学生に気づきを与えることは重要です。しかしあまり漠然とした問いかけでは、先に進めないことが多くみられます。学生から回答がなければ間髪を入れずに問いを具体化します。「痙性を緩めなければ、関節自体の動く範囲が測れないのでは」と。「痙性を落とす手段を調べてみて」と具体的に提示します。そして、タイムリミットも決めます。

文献を探しと実践に向けたアクティブラーニング

 1)文献の見つけ方

 まず学生自身に手持ちのもの、心当たりのあるもので調べてもらうことが大切だと思います。それでも、なかなか進まない場合、宿題にするのではなく、見つけ方をレクチャーすべきです。「一緒に図書室へ行こう」と。このような機会がなければ図書室で文献を探すということをしない(したことがない)学生さんも多いです。
 教員と学生合同で探します。図書室で学生が迷ってそうならば、該当する文献があるエリアも伝えます。こうして探していると、めぼしいものを見つける学生もいます。しかし、教員の方が見つけられる確率は圧倒的に高いです。なぜなら、①どの本に何が乗っているかをあらかた知っている、②索引や目次の使い方を知っている、③めぼしい記述から孫引きをするすべを知っているからです。特に2年生くらいの学生で、③を実践できる人はほとんどいません。
 教員が見つけた場合、①②③をどう用いたのかも説明して、該当する箇所の資料を学生に見せます。 

 2)文献の読み込み

 自分たちが現時点で必要な文献ですから、はっきり申し上げて教員があれこれ言わなくても学生は必死で読み込みます。教員は、難しい言い回しや学生が専門用語で困っていた場合手助けをするくらいでしょうか。黙って学生を見守ることに徹する方がいいように思います。

 3)文献の内容に沿って練習と教員の介入

 文献に書かれている内容にそって学生は自主的に練習を始めます。文献に写真やイラストがあればなお理解が進むでしょう。教員は見守りつつ、学生が記述を実践に置き換えようとしている時に、うまくできていない、齟齬があるところについて声掛けします。「もう少し、〇〇をもったほうがいいよ」という感じで。
 まら、文献に書かれている細部を実践するのは難しいので、そうした点を実演なども交え説明すると乾いたスポンジが水を吸うがごとく熱心に学びます。

アクティブラーニングの効果

 演習科目は、従来からアクティブラーニングといえばアクティブラーニングでした。ただ、学生任せのところが強く、アクティブにやるようにと指示を出していただけの場合もあったのかもしれません。
 学生が自ら学びたい、資料を探し、食い入るようにそれを読み、その内容を実践して、目の前の課題解決を行おうと取り組めるような形になることがアクティブラーニングであると考えます。そのためには、教員は、課題の難易度のコントロールと課題解決方法の探し方を実演も交えて教えつつ、学生と一緒になって行動することが良き効果を生むと思われます。
 今回実践してみたところ、授業計画通りにことが運びました。今後も、試行錯誤して報告します。



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