新型コロナウィルス感染症にともなう医療従事者の疲弊

 


 仕事で、いろいろな病院へ訪問をさせていただいています。新型コロナウィルスが蔓延して以降、病院での対応が様変わりしました。職員の皆様、疲弊しますよね。
 給与カットの問題や職員の家族が登園拒否に遭うなどの差別を受けている問題は、様々なところで指摘されていますが、それ以外にも疲弊する要因がたくさんあります。今日は、なぜ医療従事者が疲弊するのかを考え、書き留めておきたいと思います。

自分たちの健康管理と報告からくる閉塞感

 多くの企業でも行われていますが、毎日の体温チェックや体調の確認を行うことが医療従事者も求められます。しかも、厳重に。医療従事者は、高齢者や病人を相手にしていますし、一度院内で感染が広がると収拾がつかなくなるため、最大限の感染予防が要求されます。そのうえで自身の健康状態と家族を含め異常があれば報告して対応することが求めらます。
 最大限の感染予防は、行政ルールとは別の独自ルール等で達成されているのが現実です。一般の人以上に、外食、飲み会、旅行を控え、休みの日も不要不急以外の動きをしないことが要求されます。病院として取り決めていなくとも、職員の中で暗黙の了解が出来上がり、それが非公式ながらも院内ルールとなり、自粛を続けることになっているところもあると推察されます。
 世界中が閉塞感を持っていると思いますが、医療従事者の感じる閉塞感はもっと強いものではないでしょうか。

感染対策にともなう業務増

 1)院内清掃・消毒業務

 店舗等でも行われていますが、医療機関でも1人が使用したものは清掃・消毒を徹底しています。ましてや、身体に異常をきたした方が来られるわけなので、通常店舗よりも徹底的に消毒をすることが要求されます。また、一日の仕事終わり、仕事始めにも同様に消毒を行う施設が多いでしょう。
 こうした作業は、以前から行われていましたが、回数を含めた作業量は感染拡大前の比ではありません。消毒作業だけで、職員の業務は相当増えています。

 2)来院者の感染チェック業務

 病院の入り口では、看護師、事務職員などが数名待機し、来院者の所属と名前、体調チェック、検温を行い、入館が可能か確認して振り分けています。この数名の職員は、感染拡大以前は、各部署で違う業務をされていた方々です。この数名が、入り口で一日張り付いていること自体が業務増なわけです。

 3)オペレーション業務

 入館に制限を設けている病院がほとんどです。入院患者の家族が来院します。面会にくる場合もありますし、洗濯物や生活用品を届けにくることもあります。こられた人たちの来院目的を聞き、該当する病棟へ電話をかけ、時には物を預かって届けたりする作業があるわけです。
 また、私のように院内の職員を訪問するものもいます。これまでと勝手が違うことから、こうした訪問者に対しても目的地まで職員を一人あてがい、案内してくださる病院もあります。
 以上のようなオペレーション業務ですが、感染拡大前は、病院受付でインフォメーションをすることはあれ、来訪者へ目的地まで行くように伝え、対象者と直接解決してもらうことができました。感染拡大によって増加した業務といえるでしょう。

 4)異動に伴う一人一人の業務増

 2)と3)で紹介した内容は、恒久的に人を配置し対応にあたってもらう必要のある仕事です。ではこのために、新規雇用したのかといえばそうではなく、ほとんどの病院は、職員の配置換えなどでカバーしていることでしょう。
 そうなると、その職員がもともといた部署の人員はマイナスとなります。マイナスになったからといって業務がなくなるかといえばそうではなく、一部の効率化や削減は行うにせよ部署内の職員でカバーするわけです。消毒業務などで業務量が増える中、医療従事者全員にマイナス人員をカバーする業務もかぶさってくるわけです。

自分たちのペースで仕事ができない

 1)装備品による負担と疑わしくは厳戒態勢

 感染予防のためマスクの着用は必須となりました。これは、他の企業でもほぼ同じでしょう。医療従事者はこれに加え、感染の広がりがひどくない地域の医療機関は別として、患者さんに会うときにはゴーグルを着用していることが多いです。この慣れないゴーグルに一日中、顔を覆われ苦痛を強いられています。一人業務の時間なので、ちょっと装備品を外す。しかし人と会うとなるとまたすぐに装着せねばなりません。大変です。
 スタンダードプリコーションという感染対策における考えがあります。これは、汗を除くすべての血液、体液、分泌物、損傷のある皮膚・粘膜は感染性病原体を含む可能性があるとする考えです。これらに触れないようにして感染を防ぎます。
 そのため、未知の感染症であればキャップやゴーグル、マスク、ガウン、手袋、シューカバーなどで医療従事者は身体を覆います。
 新型コロナウィルス感染症が蔓延する前であれば、熱発患者が来院しても他の患者にうつらないように隔離はするも、医療従事者の感染対策の警戒レベルはそれほど上げず、装備品も簡易なものでした。しかし、現在は熱発患者に対して警戒レベルを上げて関わりますので装備も重厚となります。装備品の管理と装着だけでも大変であり、これまでの仕事のペースとは全く異なります。

 2)休憩時間

 休憩時間くらいゆっくり、同僚と話をしながら和気あいあいと過ごしたい。とある病院の食堂は『食事中会話禁止』とデカデカと張り紙があり、スタッフ室でもマスクを着用せずに会話することを禁ずるというような注意喚起がなされていました。院内で、リラックスできる場所はどうやらほとんどなさそうです。

 3)通常業務は変わらない

 異動職員のカバー、消毒作業の増加、装備品に伴う業務増がある中、リラックスできる機会が減少していることを書いてきました。こうした負担が発生していますが、従来の医療サービスを提供する通常業務は、ほどんど変化がありません。職員は通常業務に加え、様々な業務を行うことになっているわけです。
 これまでのペースで仕事をしていると業務が回りません。
 逆に、患者数が減ったので、通常業務が減少した施設もあることでしょう。そうした施設は、今度は、経営やスタッフの給与・賞与の心配が必要となってきます。業務改善を行い減収に歯止めをかけるための新たな仕事を行わなければなりません。
 医療機関で働いていますと、スタッフの退職などで一時的に部署の一人一人の仕事量が増加することは多々あります。しかし、数か月後に新規入職があるので、それまで頑張ってほしいなど、期限付きの負担増がほとんどです。新型コロナウィルス感染症は、先の見えない業務増であり、スタッフは終始仕事のペースを乱された状態にあるわけです。

 4)職員を増やせばどうなるか

 業務増ならば職員を増やせばいいではないか。その通りです。しかし、人を増やしても、患者の診療が増えるわけではないので、収入増と直結しません。今回の業務増に対応するために、人を増やしても人件費だけかかることになります。
 潤沢な経営状態の医療機関なら人件費率を上げることも可能かもしれません。ただ、前述したように、この業務形態の先が見えませんので、経営のことも考えると、安易な人員増に踏み切ることができないことでしょう。


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