作業療法の役割と広報のあり方


 身体障害領域の施設へ実習に出ている学生から、実習先で患者さんの身体に触れさせてもらっていないけれどもどうしたらいいだろうかと質問がきた。
 大きなトラブルではなかったのだが、学生の作業療法のイメージに違和感を感じた。
 これをきっかけに、以下の目次に作業療法の役割と広報のあり方について考えた。

学生から受けた違和感の理由

1)身体に触れさせてもらうのが当然といった考えの形成

 この学生の言葉から、熱心さが感じられる。昨今、実習が辛いと連絡をしてくる学生もいるがこの質問をしてきた学生からはしっかり学びたいとの思いが伝わる。同時に、身体障害領域で頑張ることとは、期間中に、患者の身体に触れ、動かし、データを収集させてもらい問題点と目標を抽出し、介入方法を考えることだと声が聞こえてくるようだ。
 つまり、この学生にとって、いや多く学生にとって、身体障害領域の実習は、医師の処方に基づいて、実習指導者の指導監視監督のもと、関節可動域を図り、筋力テストを行い、感覚検査をして、反射をするというイメージが形成されていると考えられる。


2)学生による作業療法士の役割のとらえ方

 学生は、身体障害領域の作業療法士を身体的なデータを収集して機能回復訓練を行い、日常生活活動の訓練、在宅復帰に向けた訓練を行う人ととらえているといっても過言ではなかろう。
 実際に、学生は療法士が身体機能面へのアプローチとしてリラクゼーションや関節可動域訓練、起居動作訓練、バランス訓練をしている場面を多く目にしてくる。加えて、手工芸を行っている場面も見てくる。機能訓練と手工芸を行う人という役割をイメージしているであろう。

イメージ形成の根源

1)学内教育

 イメージ形成の根源はといわれると、実習までの学内教育と実習地で映った様子による。とはいえ、学内教育の時間の方が2~3年と圧倒的に長いことから、そのウエートは学内教育の方が大きいと考えられる。
 学内教育では、1年生のうちにリハビリテーション概論や作業療法概論を学習し、同時に解剖学、生理学、運動学といった専門基礎科目を習う。概論系は主に歴史や制度の話から始まり、ICFの話へと進み障害や生活機能について学ぶが、事例を知らない学生からすると、前半は社会科の歴史の授業、後半は機械的に人の営みを分解しているだけにしか映らない可能性がある。
 そして後期になると、反射や形態測定、筋力テストや関節可動域測定と技術習得に一定の時間を要する検査技術を学ぶ。ここで学生は、こんな検査ができるようになるとちょっと医療従事者って感じがするなと思うのである。
 もちろん、ここから、身体系、精神系、発達系、老年期の総論や各論をならっていくがタイトなスケジュールの中ハイスピードでの履修でなかなか咀嚼できない状態になる。面接で聞くことや心理的な背景の話なども展開されているが、分野ごと疾患ごとで行われることからインパクトが弱くなってしまう。
 生活行為向上マネジメント(MTDLP)も習い、演習もするが、自身の身体を動かし同時に知識も入れることを求められた検査系のインパクトは強く、また実習前に練習をしていくことも求められることから、作業療法の評価イコール検査測定となってしまいがちである。

2)入学当初の広報

 学内教育の中のわずかな時間で生活行為向上マネジメント(MTDLP)をやったとしても学生のイメージはそうそう変わらないであろう。学生のイメージは入学前から作られているように思ってならない。
 入学時に説明される言葉と図がそもそも、作業療法士が患者の身体に触れ、エクササイズしているものが多い。関節の可動域訓練をしている場面の図、学校のパンフレットを見ても血圧を測っていたり、関節を動かしていたりしている。
 つまり、これらの行為が作業療法の象徴になっている。このような象徴で作業療法を理解し、入学してからの教育でそれをインパクトを与えられて教育され、実習前に振り返りもさせられると、当然冒頭で述べたような学生の言葉が出てくることになる。

3)広報から見直すことを考える

 広報資料では、作業療法の対象者を説明した後、すぐさま象徴的な作業療法訓練が紹介されてはいないだろうか。
 実際に作業療法士は、象徴的な訓練に入る前に必ずやっているはずである。対象者に対して、次のことをまず聞く。
 「どんなことで困っていますか?」
 「とにかくこれだけは何とか解決したいということは何ですか?」
 「大切にしている習慣は何ですか?」
 「あなたが入院されたことで自宅で困っておられる人はいませんか?」
 「どんなことで困ると思いますか?」
 「実はこんなこともお困りではないですか?(提案し隠れた問題を引き出す)」
 こうした質問をフォーマルな面接や世間話も交えて、対象者の「こだわり」を見出し引き出す。そして解決するため作業療法士ができる援助内容を説明し、目標と援助内容に同意を得てエクササイズに入る。こうした問題を探る過程で身体に触れ検査をすることはもちろんあるし身体を動かし訓練することもあるがそれは一部である。
 作業療法の専門性という意味では、身体に触れるのではなく作業活動を用意し、作業を使って課題である作業を解決していくことが重視される。
 インタビューの部分課題や問題・目標を一緒に患者と考える部分同意を得ている部分が広報を行うときにそっくり抜け落ちてはいないだろうか。
 患者の作業機能の障害を一緒に考えているところを表出しなければ、入学を検討している学生はもとより、在学生の作業療法へのイメージは、身体を直接触れ検査やエクササイズすることとなるであろう。

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