訪問看護ステーションからのリハビリ職の訪問増が問題視(令和2年度介護保険制度改定に向けた議論)

 



 令和2年10月22日(木)に第189回社会保障審議会介護給付費分科会が開催され、その資料が閲覧できます。この分科会では、訪問看護ステーションからの理学療法士(以下、PT)等によるサービス提供の増加や一部のステーションが訪問看護の趣旨から逸脱していることが指摘され、その改定の方向性が議論されました。指摘内容の概要をみたうえで、そもそも訪問リハビリと訪問看護ステーションからのPT等の訪問の違いは何か検討し、分科会の議論に沿って改定されることで予想される影響を考えます。あくまで私見です。 

介護給付費分科会での指摘

 まず、資料2で示されている分科会の論点は、「訪問看護サービスは、疾病又は負傷により居宅において継続して療養を受ける状態にある者に対 し、その者の居宅において看護師等による療養上の世話又は必要な診療の補助を行うものである。」が実行されているかです。
 19ページでは、看護職員の割合が「80%以上」の事業所では、緊急時訪問看護加算や特別管理加算の届出を行っている事業所の割 合が高いことが示されています。つまり、看護師の割合が高い事業所では、療養上の世話や診療への参画が行われていることを重視しているといいたいのでしょう。
 一方、20ページでは、平成21年以降、訪問看護ステーションの事業所数が約1.8倍に増える中、PT等が所属する割合が20%未満の施設の割合が平成21年時点では約90%だったのが平成29年では66%と20ポイント以上、減少していることが示されています。このデータをみて、訪問看護の施設が訪問リハビリをするための施設になっていると指摘しているわけです。
 さらに、21ページで、増加したPT等の業務にも踏み込み、看護とPT等のサービス割合を比較して、要支援者へのサービス提供の割合がPT等は多く、その割合も平成24年以降年々増加しているとしています。そして、22ページで、「リハビリ職による訪問看護を主に提供されている利用者は、医療的処置・ケアが少ない」としています。PT等は、軽症状の利用者を相手にサービス提供を増やしているが、これは訪問看護の趣旨から逸脱していると暗に指摘しています。
 以上が介護給付費分科会の資料から読み取れることです。
 資料2の23ページでは、令和2年度診療報酬改定の資料が出されています。Gem Medの記事によると、23ページを根拠資料の一つとして、介護保険においても同様に訪問看護ステーションの人員配置基準(看護職員6割以上)にしていくという流れに話が展開されたようです。今後の流れは、軽症者の訪問看護からのリハビリテーションを減らし地域支援事業に移行させることが想定されています。(出所:訪問看護ステーション本来の趣旨に鑑み、「スタッフの6割以上が看護職員」などの要件設定へ—社保審・介護給付費分科会(1)

訪問リハビリテーションと訪問看護ステーションからのPT等のサービスの違い

 なぜ訪問看護からリハビリテーションが行われることが問題視されているのでしょう。
 リハビリ専門職の方でもご存じではない方もおられますが、訪問看護ステーションは、リハビリ施設として位置付けられていません。訪問看護サービスの一環としてPT等が訪問サービスを展開しています。訪問リハビリを行ってよい事業所は、医療施設と介護老人保健施設であり、医師の指示のもと実施されます。しかし、訪問看護ステーションからPT等がサービス提供をして報酬を得ることは、事実上はできているわけです。
 既に是正はされていますが、以前は、PT等が利用者のもとへ訪問すると、訪問看護として訪問した場合と訪問リハビリとして訪問した場合では報酬も異なり、訪問看護の方が高額でした。起業しようと考えたときに、訪問看護ステーションを立ち上げるのと、病院や老人保健施設を作るのとでは、前者の方が簡易にできます。訪問リハビリを積極的に行うための事業をしたいと思った時に、事業形態として訪問看護ステーションが選択されてきたと想像されます。

介護給付費分科会の議論に沿った改定で予想される影響(私見・概算)

 実際に訪問看護からのPT等のサービスでによって、健康増進が図れたり、ADLが維持できる方がおられることは周知でしょう。介護給付費分科会の議論に沿った改定が行われるとどのくらいの利用者が影響を受けるのでしょうか。介護保険のリハビリの歴史的背景をみたうえで、改定の影響をみる前に、検討しておきます。

 1)医療保険のリハビリの受け皿としての介護保険サービス

 もう古い話といわなければならなくなりましたが、2006年に保険適用となる疾患別リハビリに期限が設けられ、期限を過ぎると専門職のリハビリが受けられなくなる制度改定が行われました。当時大きな社会問題となり、「リハビリ打ち切り問題」「リハビリ難民」という言葉も飛び交いました。大規模な署名運動も行われました。
 この問題を重く見た当時の厚生労働省は、本来診療報酬改定を行う年ではない2007年に制度を見直す改定を行い、その後の制度改定で、特例措置なども取り、必要な患者には保険適用となるリハビリが再開できるように改定を行いました。そして、長い年月をかけ、介護保険のリハビリを充実させ、医療を打ち切り代わりに介護保険でサービス提供がされる流れが作られたわけです。同時に、地域包括支援事業が各地で整備され、地域ごとで特に要支援の患者のサービスを展開していく流れが作られました。厚生労働省の制度設計では、介護保険でのリハビリは、医療保険のリハビリの受け皿だったわけです。
 訪問看護ステーションからのPT等の訪問は、訪問看護の趣旨と反するかもしれませんが、これだけサービス提供が増加している現状をみると、医療保険のリハビリの受け皿の一部を担っているといえるでしょう。自己負担金が発生しているわけですから、利用者もPT等による訪問が不要なら断ることは簡単なはずです。料金を支払ってサービスを受けているわけですから、必要としているわけです。

 2)改定が実行されることで影響をうける利用者数(概算・私見)

 介護給付分科会の議論では、60%以上を看護師が占めていれば訪問看護ステーションの事業形態として認めていく流れになりそうです。資料2の20ページをみますと、現在、訪問看護ステーションの施設数は約9000であり、そのうちPT等の割合が60%を超えている事業所が4.7%です。単純計算で423の事業所が現在の流れで行くと影響を受け、従業員数の見直しやPT等のサービス提供量の削減が必要となります。
 事業所レベルでの統計ですので、各事業所に、正確に何名の職員が所属しているのかわかりませんが、仮に一つの事業所にPT等が10名所属していたとしますと4230名の職員がサービス提供をしていることになります。一人のPT等職員は一日に概ね6名から8名の利用者にサービス提供をしているとよく聞きますので、8名で計算しますと1週間(5日)で40名を担当しています。一人のPT等職員が仮に絶対数で40名の利用者を担当しているとしますと、4230×40で16万9200人、約17万人の利用者に影響が出る計算です。
 もちろん、この中には市町村の地域支援事業の適応となる人も含まれていることでしょう。別の事業所のフォローアップを受けることができる方もおられるでしょう。2006年の当時とは違い受け皿はあると思います。ただ、423の事業所の分布状況なども加味して検討せず一律に改定することによって、受け皿がない利用者が出てくることが容易に予想されます。また、こうしたPT等のサービス提供を訪問看護では認めない方向の改定となりますと、現在PT等の割合が低い事業所でリハビリの対象者を引き受けるためにPT等の職員数を増やす流れにはなりません。受け皿が必要となった利用者の新たなの受け皿として他の訪問看護ステーションが手を挙げるとは考えにくいです。
 PT等、リハビリ専門職は、訪問リハビリステーションの制度化など、いわゆるリハビリ難民がでないような受け皿づくりの議論を積極的に行い、制度化に向けた動きをより一層おこなう必要があると思われます。




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